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前庭眼反射(ぜんていがんはんしゃ)

  • 執筆者の写真: 院長
    院長
  • 7月23日
  • 読了時間: 4分

更新日:7月25日

前々回のブログ「目が回る『めまい』」で、


「内耳の回転刺激で目が動くのは、前庭眼反射という、頭の動きで景色がぶれるのを防ぐ巧妙な仕組みがあるためです」

と書きました。今回はそのメカニズムを解説します。専門的な内容になるので、正確に理解したい方は図1を印刷するなどして、説明を一文ずつ確認しながら読み進めることをお勧めします。難しくて理解できそうにない方は、後半の「結果的に、…」の段まで読み飛ばして頂いて結構です。


内耳には2種類の加速度センサーがあります。


✓ 三半規管:回転加速度のセンサー

✓ 耳石器(球形嚢斑、卵形嚢斑):直線加速度のセンサー


どちらも前庭眼反射に関わりますが、今回は三半規管由来の反射について解説し、耳石器については別の機会に譲ります。


図1・Aの赤い上向きの軸(+Z/LHRH)の回りの黒い矢印は、頭を左に向ける動きを示しています。図1・B~Dは左の内耳(かたつむり)と、各半規管が回転刺激で興奮した時の目の動きを示しています。


内耳は頭蓋骨に固定されているため、頭を左に向けると一緒に左方向に回ります。この時、図1・Cの赤い点線の記された左水平半規管(すいへいはんきかん)は、金色の矢印の方向に回転します。いっぽう半規管の中にある内リンパ(液)は慣性の法則により元の位置に留まろうとするので、半規管内を金色の矢印とは反対向きに流れることになります。この内リンパ流は水平半規管を興奮させる刺激になります。


図1 引用:https://insight.jci.org/articles/view/128397 より改変
図1 引用:https://insight.jci.org/articles/view/128397 より改変

片側に三つある半規管はそれぞれ、外眼筋(目を動かす筋肉、左右に6つずつある)のうちの左右各1つと神経で繋がっています。左水平半規管は左目の内直筋、および右目の外直筋と繋がっています。左水平半規管の興奮は神経を通してこれらの筋肉に伝わり、それらの収縮を引き起こします。その結果、目は両方とも図1・C下の赤い矢印のように右を向きます。この右向きの目の動きが、左に向いた頭の動きを相殺するため、頭が動いても景色がぶれることなく、一点を見つめ続けることができる訳です。


図1・BとDはそれぞれ、左前半規管(ぜんはんきかん、緑色の点線)、左後半規管(こうはんきかん、青色の点線)が興奮した時の目の動きを示しています。半規管の興奮に伴う目の動きは図のように、その半規管の平面と同じ平面内で起こる回転運動として現れます。首を縦に振ったとき(図1・Aの+Y軸)、左右に傾けたとき(同+X軸)の目の動きには、前半規管と後半規管が関わります。


図2 引用:https://www.youtube.com/watch?v=kQtMSf1NG0k (上下の揺れにご注目ください)

結果的に、頭が上下左右どちらを向いても、前庭眼反射が正常に作動すれば頭と目は反対向きに動き、視野のぶれが抑えられる訳です。カメラの手ぶれ補正のような仕組みです。もし前庭眼反射が働かなければ、流鏑馬(図2)の射手は、水平方向に高速で流れる景色の動きに加え、馬上で垂直方向にも揺られ、視界が定まらず、どんな弓の名手でも正鵠を射るどころか、的を凝視することすらできないでしょう。


前庭眼反射は頭の動きで視界がぶれるのを防ぐ正常な機能である一方、前庭系(内耳や、それと繋がった脳幹、小脳など)に異常が生じると、頭を動かしいていないのにこの反射が病的に起こり、目が動いてしまうことがあります。前回説明した「眼振(がんしん)」がそれです。


内耳は頭蓋骨の中にあり、別名「迷路」とも呼ばれ、直接見るのが難しいブラックボックスのような器官です。いっぽう目は体表にあるので誰でも簡単に見ることができます。目の動きを見れば、前庭眼反射の正常・異常を評価することで、内耳や脳の病態を推定できるのです。これが、医師がめまい患者さんの目を診る理由です。「目は口程に物を言う」と言いますが、目はめまいを見る窓とも言える訳です。この辺りが、めまい診療の難しいところであり、興味深い点でもあります。


次のブログでは、目が回る病気の代表である良性発作性頭位めまい症(BPPV)について、実際に回っている目の映像(病的な前庭眼反射による眼振の動画)と共に解説する予定です。

 
 
 

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