良性発作性頭位めまい症(BPPV)-1:垂直回旋性(すいちょくかいせんせい)眼振
- 院長
- 8月14日
- 読了時間: 3分
前回のブログ「前庭眼反射(ぜんていがんはんしゃ)」で予告した、
目が回る病気の代表である良性発作性頭位めまい症(Benign Paroxysmal Positional Vertgo; BPPV)
について、実際に回っている目の映像(病的な前庭眼反射による眼振の動画)と共に解説します。なお虹彩紋理は個人情報の為、目の映像はインターネット上に公開されているものを使用させていただきます。
まずは図1(動画)「Left Posterior Canal BPPV」(左後半規管BPPV)の前半約20秒をご覧ください。
ベッド上に座っている患者さんの頭を、左に45度回します。顔を左に向けたまま、上半身を真っすぐ後ろに倒す動きをご確認下さい。この動きは、左耳の後半規管(こうはんきかん)、および右耳の前半規管(ぜんはんきかん)の平面内の運動です。
ここで図2(前回のブログ・図1と同じ)を確認しましょう。
図1(動画)前半の上半身の動きは、図2・Aの青色の平面「RALP」内の運動です(「RA」は「右前半規管」、「LP」は「左後半規管」の意味)。
図2・Dで示した左後半規管(青色の点線)は、この運動により、金色の矢印の方向に回転します。半規管の中にある内リンパ(液)は慣性の法則により元の位置に留まろうとするので、半規管内を金色の矢印とは反対向きに流れることになります。この内リンパ流は後半規管を興奮させる刺激になります。
左後半規管の興奮は前庭眼反射により、左目の上斜筋、および右目の下直筋の収縮を引き起こし、図2・D下の青い矢印のように、左後半規管と同じ平面内の目の回転運動を生じます(左目は下転+内旋、右目は下転+外旋)。回転する方向は、金色の矢印とは反対向きで、内リンパ流と同じ向きです。

目の動く範囲は有限なので、後半規管の興奮が続いた場合、目は一旦反対方向(図2・Dの金色の矢印と同じ向き)へ急速に戻った後、再び図2・D下の青い矢印の方向に動きます。ちょうど「目が回る『めまい』」のブログで示した、「景色の流れる方向にゆっくり動き、反対方向(電車なら進行方向)に急速に戻る」眼振と同じです。
急速に戻る目の動きを眼振の急速相、ゆっくりした動きを眼振の緩徐相と呼びます。前庭眼反射で起こる目の動きは緩徐相の方ですが、眼振の方向は便宜上、急速相の方向で表す決まりになっています。「目が回る『めまい』」のブログの眼振は、急速相の方向が眼振の主の右耳向きなので、「右向き水平性眼振」と呼びます。
眼振の主には急速相の景色は見えないため、緩徐相で見える左に流れる景色を追い続けられる訳です。
通常、頭位変換(座った状態から後ろに倒れた状態等への頭の位置・向きの変化)が終わり頭が静止すれば、内リンパ流は停止し、同時に前庭眼反射による眼球運動も停止します。
ところが良性発作性頭位めまい症(BPPV)では、頭を静止した後も半規管が病的に興奮し、図1(動画)の後半で示された病的な眼振が生じます。この眼振は、緩徐相が図2・D下の青い矢印の方向、急速相(=眼振の方向)は反対向きの図2・Dの金色の矢印の方向です。急速相の目の動きは、回転成分と、上向きの垂直成分からなり、こうした眼振を「垂直回旋性(すいちょくかいせんせい)眼振」と呼びます。
動画の再生速度を落とすと眼振の急速相・緩徐相および垂直成分が分かりやすくなると思います。
次のブログでは、この眼振の生じるメカニズムついて解説したいと思います。
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